オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

憂鬱な公務員さんへ

Netflix版新聞記者を見ましたか?

なにより綾野剛さんが凄かったですね。最初と後半で体重が10キロ位痩せたんじゃないか?と思う程にやつれ、鬼気迫る演技に驚きました。

最初は、肩で風を切るエリート官僚。途中から、汚い仕事をやらされていた事に気づき、挙句に権力から使い捨てられそうになる事に苦しむ公務員。最後は吹っ切れて、自分の信念のまま歩んで行こうとする爽やかな青年で終わっていました。

 本当に公務員の世界は独特ですね。私は、何を隠そう一人泣かせてしまった事があります。つまらない話だけれど。人員を増やして下さい。それからお給料を増やして下さい。そうすれば、私なんかより優秀で立派な人を呼んできて交代できますよ。仕事はボランティアじゃないんだからちゃんとした仕事にはちゃんとした報酬を払って下さい。何でもかんでも入札とか公募とかやってるから、安かろう悪かろうを握らされているんじゃないの?と迫ってみました。

どうなったかと言うとその役人さんは、上の指示でどうしようもないんですって言い張ったんですよ。埒が開かないので、上って誰ですか?私は非常勤だし怖いものないから、私が責任取るから、その、上と直接交渉させて下さい。あなたは悪くない。暴れてる私が悪いんだから。って言ったら、彼はとうとう、私にも家族がいるんです。って、涙目になっちゃいました。

え?なんで、そうなるの?

公務員の屈託を知らなかった私には、理解不能の展開でした。上司の指示に従って動く。指示なしには動くべきではない。という事が公務員の常識だったようですね。出世というニンジンをぶら下げられて盲目的になってない?と批判されると、自分の生活、家族の安定が一番大切なんです。と泣き出す。ドラマ新聞記者にはそんな公務員の憂鬱が言葉少なく鮮やかに描かれていましたね。

でもね、そんな人生の方が辛くない?

あなた達はこれが職務と考えて上司の指示に従い、結果的に誰のためにもならない仕事を、ひどい場合は汚い仕事をさせられていませんか?あなたが今、憂鬱な気分でいるならその可能性が高いです。言っときますけど、誰かが悪いのではありません。全員が少しずつ悪いのです。忖度文化の成れの果てです。ですから、上司や権力の中枢にいる人を怨んではいけません。彼らもかわいそうな被害者なのですから。そして皆が自分を被害者だと思っている限り、いつまでも権力は間違いを認めず、逮捕や起訴を逃れ税金を私用に使い暴走は続くでしょう。平家物語の時代から、権力の暴走の仕方は変わっていません。

現実は、真面目な人が報われ不真面目な人にはそれなりの報いがある、そんな単純な世界ではありません。世界は不条理に満ちている。

やるべき事は、不条理を受け止め、それでも己の信念に従い、機嫌よく生きる事です。諦めることではありません。既に社会の変化は始まっています。株価と同じで、社会の空気も個人が予想するだけで変わるんですから。それから、大丈夫。信念を持って生きる人には必ず支援者が現れます。

 ここで、村上春樹さんの有名なスピーチをもう一度聴いてみて下さい。何を言っているのかを理解できるあなたには、もはやシステムの一部に溶けてしまうような生き方は出来なくなるでしょう。そういえばドラマ新聞記者の中では田中哲司さんが、システムの側に溶け込んでしまった、魂のない役人を見事に演じておられましたね。あの演技力も素晴らしかったです。


 もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、それでもなお私は卵の側に立ちます。正しい正しくないは、ほかの誰かが決定することです。あるいは時間や歴史が決定することです。(中略)

 その壁は名前を持っています。それは「システム」と呼ばれています。(中略)

考えてみてください。我々の一人一人には手に取ることのできる、生きた魂があります。システムにはそれはありません。システムに我々を利用させてはなりません。システムが我々を作ったのではありません。我々がシステムを作ったのです。