オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

桃源郷の街

今週のお題「好きな街」

 駅前の商店街を、大学生風のお嬢さん達が談笑しながら歩いているのをよく見かける。

それは大分のこと。駅前は綺麗に再開発された様で、昔の面影はほぼない。駅前商店街を歩くと、圧迫感のない程度に人が多くいて、平和な地方都市、素敵な街だ。そして、3.4人連れ立って楽しそうにしている若い女性が目につくのだ。なぜなんだろう。カップルとかではなく3.4人連れなのだ。20才前後と思われるけれど、年齢はわからない。どこから来てどこへ行って何をするのか、聞きたくなったけれど、まさか突然にインタビューなんか始めたら、警察官が飛んで来るだろうから、ぐっと我慢した。それにしても、若い女性がナチュラルメイクで幸せそうに歩いているのは、いい街の証だと思う。

 建て替え替えが進んでいない路地に入ると、古い布団屋があった。大きなショーウィンドウに、時間が止まってしまったかの様な旧型の布団が飾ってあって、何故かミッフィーのぬいぐるみがその布団を掛けて寝ている。少し濁ったショーウィンドウの木枠はだいぶくたびれていて、その下には、所々が欠けている、元は藍色だったと思われるタイルがすすけている。

ショーウィンドウの脇に見える、小さな店への扉を開けると、異世界へ繋がっていそうに思った。

通りにはもはや人影はなく、布団屋はどこか、ぽつんと寂しげにしていた。

 ここから物語が始まりそうだけれど、やめておきましょう。扉の向こう、ここではないどこかに行ってみたいと、思う事は誰にだってある。

 子供の頃、両親と梅を見に行った時の事です。何百本もの梅林が山の斜面に綺麗に植えられていました。それを見た父は、桃源郷の様だと言いました。子供の私は意味が分からず、桃源郷って何?と聞きました。

父は、山の中の、とあるトンネルを抜けると、そこには桃の花がたくさん咲いていて、天国の様に綺麗で幸せな村があって、そこの事を桃源郷と言うんだ、と教えてくれました。そこにはどうやって行くの?どうやって帰って来るの?と私は尋ねました。父は、トンネルはどこにあるのかは誰も知らないし、一度行ったら帰って来れない、と答えました。私は怖くなって、帰って来れなくなったら困るんじゃないか、と言い張りましたが、父は笑って、天国みたいに幸せだから、帰って来られなくてもいいんだよ、と言いました。

その時母が、これは梅の花だから桃の花じゃあないから、ちゃんと帰れるよ、と取りなしてくれなかったら、私は泣き出していたと思います。

子供にとっては、桃源郷は我が家なのでしょう。大人も、我が街サイコーって思いながら住みなしたいものです。