オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

やさぐれ清兵衛とニャーチェ姫

怪物と戦う者はその過程で自分自身も怪物になる事のない様に気を付けなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。ニーチェ


新型コロナ感染症の第6波は、いつ終わるのだろう?

ここは住宅街にある医院。かかりつけ医から専門医までを自認し、暇だから?来ちゃう近所のおばあちゃんから、専門医を求めて遠方から来られる患者さんまでを、時にはお地蔵さんの様に穏やかに、時にはアスリートに対する鬼コーチの様に厳しく、ペルソナを使い分けて細心の最新医療を目指していました。

そこへ来て、この新型コロナの第6波。

元々、予約はパンパンで遅れ気味なのに、コロナ疑いの新患がガンガン来る。その他の人と接触させないために、発熱外来の為に車で来院した人は車に乗ったままの診察方式に。すると今度は車が駐車場から溢れて医院の前の道に車の行列が出来ちゃう。地元警察が、何事かと見に来たくらい。出来る限り対応するしかなくて、職員全員で一生懸命にひたすら回す。それでもとにかく患者さんがどんどん来る。どうしたって待ち時間は延びる。そのイライラからか、今回のオミクロン患者さんの特徴は、上から目線というか、礼節を知らない子供っぽい人、不遜な感じの人が多くて大変なのでした。では検査しましょうか?と言うと、間髪入れずに、そのために来たんだからと怒鳴ってみたり。テレビではこう言っていたんだから、テレビ見てないのかと、意味不明の言い訳?が始まったり。症状が軽くて入院手配が必要な人がほぼいない、つまり元気に文句言ってるからまあいいかと思う事にしていますが、毎日色々言われてるとそれなりに結構辛いんですよ。こんな日々が続くと、やつれるというよりやさぐれて来ます。人はそれをやさぐれ清兵衛と呼んでいました(いや呼んでいません)。

 その事に気がついたのは、今日もヘトヘトだと思いながら家に帰ったその日。愛猫がニャーんと、いつものおかえりの可愛い声。でも可愛いのはそこまでで、後は全然いう事聞かない。そこは上がっちゃダメでしょ。あーもう、そんな所でバリバリしないの。え?さっきごはん食べたのにまたおねだり?の繰り返し。猫は走り回る。飼い主のやさぐれが乗り移ったのか?猫のご機嫌を取るので精一杯になる飼い主。わがままネコ姫さまの前では、やさぐれている暇なんてない。という訳で、振り回された挙句いつの間にか不眠症もなく、深い眠りに着く飼い主でありました。

 それからしばらくして、ふと、不遜な患者さんが来なくなった事に気がつきました。医療者の事を気遣う言葉をかけてくれる人や、ありがとうございますと言ってくれる患者さんが増えました。

 こうして、やさぐれ清兵衛はニャーチェ姫によって救われていたのでした。


「悪感情と戦う時、その過程で自分自身も悪感情に囚われることのない様に気を付けなくてはいけない。猫の瞳に深淵を見る時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」ニャーチェ