オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

猫を愛する人は

今週のお題「わたしは○○ナー」私は猫のバトラーである。或いは、猫の寵臣、佞臣、下僕、従者…。猫を愛する人は、なぜか猫にお仕えしてしまう。犬を愛する人とは主従が逆向きになってしまうのが面白い。猫なんて、本当に猫の目の様に気まぐれで、不意に一人になりたがったり、本を読んでいると邪魔をしに来てみたり、さながら、突然ふらりと眼前に現れて、一片の詩を吟じて去って行く詩人の様だ。猫さまの、あの若葉色の美しい瞳は深淵を湛えていて、覗き込む者に三千世界の成り立ちの秘密をちらりと、ほんの僅かだけを見せて、思わせぶりに目を閉じて眠ってしまう。その瞳を一度でも見た者はその深淵をどうしたって、また見たくなる。そうして猫は従者を従える。
 従者の喜びは、お仕えするお方が、自分を必要としながら拒絶する時に最高潮となる。甘い声で従者を呼びつけ、食事と寝床を設えさせる。そしてある時突然に、従者を叱り飛ばすのだ。些細なミスに、ぴしゃりと手を打ち、文字通りに牙を剥く。かと思えば寛大に赦し、優しくして下さる。その不規則な仕打ちと温情に、従者は振り回され、籠絡される。
 猫を愛する人は、トロフィーワイフを手に入れた成り上がりの男の様なものかもしれない。完璧な美貌と、完成された気高さと、完全なる我儘を取り扱い堪能する日々。人間のトロフィーワイフとは違い、別の人が好きになったからさよなら、とか言わないのが猫にお仕えする者の幸せなのだ。