オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

沙汰の国の弁護士 

 ギリシャ神話には、それはそれはカラフルな神様が出てきて愛憎劇を繰り広げる。日本の古事記だって同じ。そんな小説書いたって誰も読まないよ、というくらいの変な物語が堂々と語られる。そもそも、兄妹のイザナキとイザナミが交わって、国を産もうとして最初の二神は流してしまった。そこで女神の方から声をかけたのが悪かったのかと考え婚姻をやり直して改めて国産みを開始する。そしてイザナミは次々と神を産むが、火の神を産んでしまった事で、焼かれて冥界に行ってしまう。続く…。
はあ?、こうなったら色々と深読みするしかないのか、という様な物語が続きます。そう、深読みするべき物語というより、そうでもしないと消化できない、変な物語なのです。
それから、例えば出雲大社に行くと、本殿の裏に何十もの小さな祠があり、様々な神様が祀られています。神様の業界でも上下関係や男女問題や、色々あるんだろうなあ、大変だなあ、でも八百万の神とはそういう事か、とか適当な事を言いながら、とりあえず手を合わせておく。お盆にはお寺でお坊様の説法を聞いて御仏に手を合わせる。そんでもって年末になるとメリークリスマス、とか言って盛り上がる。こういう寛容な態度は、とても日本的だと思います。日本の社会には、一神教のそれのような苛烈さはなく、寛容で、とてもとても優しい。この国の、八百万の神々の多くは、厳しい教えで民衆を導くというよりは、現世利益のお願い事を聞いてくれる、親バカみたいなフレンドリーな神様として語られる。恋愛成就の神社、なんて一神教の教徒が聞いたら、腰を抜かすか、頭を抱えるんじゃないか、と思います。平和すぎて。
 こんな宗教態度が主流の日本で、どうしてこれほど狭隘な教義の宗教が浸透したのか。この社会が、それほどにまでに生きづらいものになってしまっていた事を、私達大人が一人ひとりの責任としてどうやって引き受けてあげられるのか。
統一教会では、日本はサタンの国と言われている、そして信者は、脱会するとサタンの手に堕ちると脅されると、TVで紹介されていました。哀しいし、恐ろしい。ただ、救いだったのは、その問題と真摯に向き合い、闘って下さっている紀藤正樹弁護士はじめ、弁護士先生達の眼差しが、とても大らかで優しい事でした。それは、旧統一教会の会長の、冷たくて虚な眼差しとは対照的で、とても暖かくて力強い。
 そうでした。侮る事なかれ、我ら日本人は、八百万の神のおとな。子供ではなく大人です。大人の柔らかな微笑みでもって、異教や異国の文化をふんわりと包み込み、土着のものと馴染ませて消化吸収し、日本文化として花開かせてきた民族です。だから、教会で幸せになれなかったり、救われないと感じたら、社会に、あなたが思うサタンの国に出てきて欲しい。あら大変でしたねえ、とお互いに言いあって、同胞としてこの国で共に生きて行きましょう、大人同士として。大丈夫、紀藤先生もいて下さるし、この国はサタンの国ではなく沙汰の国ですから。それなりにちゃんと沙汰しますよ。