オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

三年目病

 三年目の浮気とはよく言ったもので、コロナさんとのお付き合いも、三年目を過ぎたら倦怠期だなあと、呟いておりましたら、二十代の若者にきょとんとされました。ジェネレーションギャップというやつですね。大目に見ていきましょう。
 三年目の話でした。
 石の上にも三年と言いますが、何かを続けていると、三年目というのは意外とすぐに来てしまう。入社三年目、弟子入り三年目、プロの音楽家三年目、起業三年目、司法修習生上がりの三年目検事、研修医上がりの三年目医師、どの業種でも同じ様なものなのではないかと推察するに、三年目にかかりやすい病気があります。三年目病と名付けましょう。三年目病というのは、中二病の様なもので、職業人デビューしてからおよそ三年目に訪れる、あの厄介なヤツなのです。中二病は、中学二年生にありがちな、自分を大人びてみせる為の背伸びや、自己顕示欲と劣等感を交錯させたひねくれた物言いなどが典型とされていますが、三年目病は少し違います。一つの職能を三年も続けていると、研鑽を積んできた自分に対して自負や自信がついてくる。そんな心持ちの時に、ふと見上げると、給料泥棒にしか見えないぼんやりした上司がいたりする。何故あいつは仕事もろくにもしないし、勉強もしてないのにあんなに偉そうにしているんだ、許せない。と思う様になってしまうのが三年目病なのです。なんなら自分の方があの上司より能力は優っていると思う。そんな愚鈍な上司の指示なんぞ聞きたくもない、という夜郎自大な気分はどんどんエスカレートしてスタンドプレイが増えていく。本当は、大抵の仕事というものは、一人ではどうしようもなくて、周囲の気の合わない人や、邪悪な人をも含めて大勢の人の協力があって初めて成り立っている事を忘れてしまう病気。つまり、夜郎自大になり視野狭窄に陥る病態を呈するのが三年目病です。
 三年目病は大人の反抗期の様なもので、誰しもが通る道であり、本来はそれを通らないと立派な職業人にはなれない気もします。そして大抵の場合、拗らせて重症化する前に、上司や先輩が、そっと軌道修正してくれていたり、自分で気がついて角を引っ込める事ができるようになる。私個人の場合は、上司をはじめ周囲の人々に恵まれたから、本当の迷惑を撒き散らす前に三年目病は完治しました。今となっては、ひたすら皆様に感謝するばかりです。
 我ながら思い返すと青臭くて恥ずかしい時代だったので、罪滅ぼしに、三年目病を発症した若者を見かけたら、温かい目で、但し大惨事になる前にさっと手を伸ばせる大人になろうと思います。