オブネココラム

ほそぼそ産業医 その他MD.PhD.。ご放念下さい。

プーチン主義者とルサンチマン

スターリンの時代はまがりなりにもソ連には「国際共産主義運動のリーダー」という大義名分があった。世界各国に「スターリン主義者」がいて、自国の国益よりもソ連国益を配慮して国内世論を誘導していた。でも、いま世界のどこにも「プーチン主義者」はいないでしょう。  ロシアと利権でつながっている政治勢力は各国にあるでしょうけれども、そういう人たちだって利己的な動機からロシアを支持しているわけで、ロシアの行動に世界史的な大義があると思っているわけじゃない。せいぜい「ロシアは悪くない。NATOが東方に進出したのが悪い。正当防衛だ」と訴えるくらいで、ロシアが自国益を超えて、世界の人々が共有する「上位価値」のために戦っていると思っている人はどこにもいない。  ウクライナが悪くて、ロシアが正しいと声高に主張する支援者が国際社会にまったくいない。これはかなり致命的なことだと思います。国際社会におけるプレゼンスというのは軍事力や経済力だけでは決まりません。思想的指南力とか道徳的な高潔が国際社会における地位にはおおきくかかわってきます。大義名分のない、自国益だけのための戦争を仕掛けたことでロシアの地位はいま劇的に低下した。もう歯止めがきかない。

 

私の敬愛する内田樹先生のお言葉である。

鞭打ちになるかと思うほど首肯しながら堪能する。ところが先生、プーチンを尊敬しウクライナかわいそうと思う人を嘲る日本人がいたんですよ。どういう情報を得て、どういう思考回路でそうなるのか、とても興味深いと思いました。だって彼も同じ時代をこの日本に暮らす同胞なんですから。彼のしでかす事は私達の責任でもあると思うから。

 まず、彼によると、子供が殺されるなんてかわいそうと思う事が、いい子ちゃんぶっているそうです。

え?あなたが今いるこのビルや自宅にミサイルが飛んでくるとか想像して言ってますか?

それから、大量虐殺はウクライナの嘘で、死体だった人が別の所でタバコ吸ってたりするんだよ。と彼は、訳知り顔で言うそうです。

という事は、虐殺があった事は信じていて、それは悪だとは思っている。そしてそれが捏造だという方を信じるって事ですね。

しかし?共産党(日本の?)が嫌い。なぜなら出来杉君みたいに正しい事しか言わないから。

そして、ここから先は想像ですが、自分より下の立場の人、話を聞いてくれそうな人を選んでそういう事を言っている。それから、なんとなく自分の考えが浅はかである事も自覚している。というのも、そもそもこれは伝え聞きで、ある優しい女性が私に教えてくれたものだから。誰も彼の話を聞いてくれなくても彼女なら聞いてくれそうな、彼女はそういう人だから。

彼をして、そういう思考にさせたものは何なのだろう?

いじめられっ子の屈託?

ルサンチマン?だとすると何に?

ご存知、ルサンチマンとは、弱者が敵わない強者に対して抱く、「憤り・怨恨・憎悪・非難・嫉妬」といった感情だと辞書に書いてあります。ニーチェが用いた用語で、そこからさらに、弱者は「善」であり、強者は「悪」だという「価値の転倒」へ、さらに「貧しき者こそ幸いなり」「現世では苦しめられている弱者こそ来世では天国に行き、現世での強者は地獄に落ちる」といった弱いことを肯定・欲望否定・現実の生を楽しまないことを「善い」としたキリスト教的道徳は本質的に歪んでいる。というニーチェキリスト教道徳への洞察だとされているのです。

 さて問題の彼です。私は彼について知らない事が多いのですが、「進学もままならない様な家庭で育ち、勉強は嫌いだし学力もなく、それでもなんとなく社会人にはなったが薄給に耐えている」とは正反対!の経歴の人です。そして伝え聞くのは、いつも所属する集団から少し離れていて、それでいて決して独りを楽しんでいる風でもないという、彼の人となり。

つまり、彼は自分は主流派ではないと感じていて、勝手に主流派への劣等感、ルサンチマンを募らせているという事なのでしょうか?

だとすると、根は深い。彼は決して絶対的な弱者ではなく、殆ど人生の成功者とされてもおかしくない人です。自身が相対的な弱者だと思っただけで、強者とレッテルを貼られた人はルサンチマンを抱かれてしまう。もっと悪い事に、実際にルサンチマンをぶつけるのは彼が思う強者ではなく、自分より弱者だと彼が考える人に向けてです。そして彼みたいな人はこの日本に、おそらく相当数いる。

ルサンチマンの力は侮ってはいけないんだと思います。ニーチェが洞察した通りなら、キリスト教を産み育てた位なのですから。こう考えてくると、プーチンアメリカに対して劣等感とルサンチマンを募らせてしまったのでしょうか?

 では、どうしたらいいのでしょう。彼の場合は、孤立させずに、とにかく話を聞く事をしようと思います。けれどこのままでは絶対に権限を持たせてはいけない。弱者の立ち位置にいる人に権力を持たせると、必ず独善的になって収集がつかなくなります。迷惑で済むか、被害者が出るかは権力の程度によりますが、おそらく同様の実例は誰でも一つ二つ思い浮かべられる位、これは普遍的な事なのだと思います。弱者の立ち位置とは、つまりマインドが子供という事です。権力は欲しいけど、他人の失敗の責任を取る気がない人は子供です。子供に一任するとどうなるかという事です。

 プーチンは止められなかったが、第二第三のプーチンの芽を摘んでいく事が、私達大人のやるべき事なのだと思います。

ルサンチマンを隠そうとしない人を政治家にしてはいけない。